うけとるのは放二のつとめる雑誌社だ。長平のキモイリでできた雑誌社である。放二は長平係りの記者で、上京中の日程をくみ、雑用をたすのである。
 しかし、長平の口添えで、姪の記代子が入社してからは、上京中の長平のうしろに、男女二名のカバン持ちが、影のように添うことになった。
「いま記代子が帰ったところだよ」
「ええ。駅で、お見かけしました」
「どうして一しょに来なかったの?」
「ちょッとほかへ回る用がありましたので」
 と、放二はさりげなく答えた。長平の問いかけに深い意味があろうとは思わなかったからである。長平は人のことにはセンサクしない男である。ところが、ちょッと、目が光った。
「記代子は、君が来ないうちに帰るのだと言って、いそいでいたぜ」
「ハア」
「何かあったのかい?」
 放二は口をつぐんだ。そして、考えた。思い当ることはあったが、意外でもあった。
 昨夜、社がひけて、二人は一しょに家路についた。新宿は二人が別々の方向へ岐《わか》れる地点だ。そこで下車してお茶をのんだが、記代子は放二のアパートまで送って行くと言いだした。
 放二はその場では逆らわなかったが、駅の地下道へくると、
「ぼく
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