や、何物ですかい。ただ、死にゃア、まだ、わかるよ。兄さんが死んだから、生きていてもツマラないッて? しかし、毎日々々が幸福で、たのしく、不平を忘れていられましたとネ。甘えてやがら。元々、自殺ぐらい甘ッたるいことはないがさ。あたりまえだ。一番人生の甘えん坊が、自殺するのさ。だから、彼女が妙テコレンな夢をえがいて、それに甘えて死ぬことはまた可なりかも知れないが、甘え方が気に食わないんだよ。ねえ、長さん。パンパンが、精神的な愛情なんて、笑わせやがるよ。それはね、パンパンが精神的な何かにすがるのは当然あって然るべきかも知れないが、こと恋愛的な雰囲気に於て、精神的とは笑わせらアね。人をバカにしてるじゃないか。ぼくはパンパンを軽蔑してやしませんよ。むしろ、尊敬してるんだ。パンパンたる者は、精神的などゝいう怪しげなものを、ハッキリ土足にかけてくれなきゃア、こまるじゃないか。彼女はぼくを、泣き男だと云いましたよ。それでこそパンパンなんだ。パンパンでなくちゃア至り得ざる境地によって、泣き男を土足にかけてくれなくちゃア、ダメじゃないか。甘ッチョイ死に方なんぞしやがって、ざまアねえや」
青木は押入からルミ子のフトンをひッぱりだして、くるまって、ねてしまった。
五
郊外の墓地の一隅に二人を一しょに埋めることになった。せつ子の家へ放二の遺骨をとりに行くと、せつ子は笑って、
「なんだか、変ね。御当人たち、生きてるときには、死んでこうなるなんてこと、考えたことがないのにねえ」
「生きてるうちは、人間みんなデタラメさ。死んでからも、デタラメでも仕方がないよ。なんとなく恰好がつけば、花なのさ」
長平は無責任なことを放言して、二ツの骨壺をぶらさげた。青木はニヤリとして、
「オレは持ってやらないぜ。長さんの心事には甚しく同情を感じていないからさ。一人で重い目をするがいいよ」
「私も同感できないのよ。お供しませんから、ごめんなさい」
せつ子は門前まで見送って戻ってしまった。
「悪縁だなア」
青木はつぶやいた。
「君とこうして歩いていると、しみじみ感じるのは、悪縁ということだね。まったく、人生は悪縁だけさ。だから意地ずくで生きのびてやらアね。死んじまうと負けだというのが実にハッキリしていやがるなア。今にこうして君の骨を埋葬してやる日のことを考えると、いくらか生きがいを感じるな」
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