の腕だのが変にぶよぶよと肉感的で、腕をまげたり腰をくねらせたりして見てゐると生物に見えてくるのであつた。
「みんなキミ子の作品だ」
「こんな芸がある人かねえ」
 それらはたしかに相当の作品だつた。どこかしらキミ子に似てゐるやうに思はれた。どの人形も理智よりも肉体の情慾ばかりであつた。絡みつくやうなしつこさと、狙つてゐる肉慾の目があつた。
「好きなのを取りたまへ。部屋の飾り物には不向きかも知れないがね。変に息苦しいやうなところがあるなア」
 と庄吉がいつた。
 けれども太平は人形を貰はずに戻つてきた。いとまを告げるまでは矢張り貰つて帰らうかと思ひ迷つてゐたのであるが、外へでるとその迷ひは消えてゐた。低俗な魂への憎しみが高まつてゐた。暗闇を這ひずるやうな低い情痴と心の高まる何物もない女への否定が溢れ、その暗闇を逃れでた爽かさが大気にみちて感じられた。あの人形もずゐぶん奇妙な肉感に溢れてゐたが、そして、どこかしらキミ子に似てゐたが、と、太平はゆとりの籠つた追想に耽つた。だが、冬の夜更けの外套と青空の下の情熱はさすがに見当らない。あの外套とあの青空がなければ――そしてその外套もその青空もすでに
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