変に応じてきわまるところがない。したがってその練習量は他流の何倍何十倍とかけられているから、こころみに伴五郎が立合ってみると、房吉一門では下ッパの方の門人に手もなくひねられてしまった。
伴五郎も江戸では剣で名のある男だ。それがこの有様であるから、房吉を江戸へつれて行けば、どこの大道場の大将だって相手にならないことは明らかだ。しかし、房吉はその師に似て至って物静かな人物で、かりそめにも道場破りを面白がるようなガサツ者ではないのであるから、伴五郎の思うように田舎侍をぶん殴ってくれる見込みはないが、江戸へ連れだしさえすれば、そこにはまた手段もある。とにかく、なんとかして江戸へひッぱりだそうと考え、同志をつのって師匠の法神の方を訪れた。
「我々江戸表に於ては多少は剣客の名を得た者でござるが、法神流にはことごとく恐れ入り申した。特に大先生ならびに師範代の房吉先生の御二方は人か鬼かまた神か、まことにただ神業と申すほかはない。房吉先生を江戸へお招きして旗本一同教えを乞いたいとの念願でござるが、若先生を暫時拝借ねがいたい」
法神も江戸へでるのは一興と思った。そこには諸国の名手が集まっているから、房
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