と、きらひなのよ、私はからだが不健全かもしれないけれど、快感なんか、感じたことはなかつたのよ。男と女が、そんなこと、しなければならないことが、私には判らないのよ。そんなことをしなくとも、私は幸福だから。今日みたいに、ミン平さんと腕をくんで歩くだけで、胸がギリギリして、全身がボウとしてしまふのよ。私の感覚は十七、八の不良少女よ。それッきり発育がとまつてゐるのだわ。だから、よその奥さんだの芸者さんが肉体の快感のことなどいふのを聞くと、いやらしくて、やけるのよ。そのくせ、私ときたら、電車の中だの往来だので、美男子の顔を見ると、何かにグイグイ押しあげられるやうにボウとしてしまふのだから」
 ミン平は不機嫌な顔をして、だまつてゐたが、
「おれは帰るよ」
「うん、まつて。送つて行くから」
 私が勘定を払つて出ると、ミン平の姿は見えなかつた。彼の姿を追つて、私は彼のアパートへ行つた。
 私はミン平の寝顔を見たことは何度もあつた。私はちかごろ、ミン平にお酒をおごつてやつてアパートへ送つて行くことが、私の生活の第一等のよろこびになつてゐた。彼はからだが衰弱してゐるので、酔ふと、すぐ、眠つた。疲れた顔に、いくらか赤みがさして、安らかな翳がうかんでくる。その寝顔は、私をいつも切なくした、時には、いやらしいやうなてれた顔で、マダム、などゝ、しなだれかゝるやうに私の手を握りかけたりすることもあつたが、ダメよ、そんなこと、といふと、
「フン、フン」
 彼はいつも変なふうに苦笑して、ネドコへもぐりこむ。そして、すぐ、眠つてしまふ。私は二三十分、彼の寝顔に見とれて、帰つてくるのだ。
 結婚前にキタ助やサブ郎などゝ遊んでゐた時からの習慣で、私が一日の出来事をあからさまに話すのを、木村は面白がつてきいてゐた。
「ふうん。あいつは性慾がないのかな、虚弱だと、色情もないものかなあ。オレには信じられん。でも、お前だつて、ちよつと、しなだれかゝつて手を握られたりすると、内心は放したくないのだらう」
「さうぢやないのよ。いやらしいと思ふときは、どんな好きな人とでも、いやなものよ」
「ふうん」
 木村も、二人の結婚は失敗だと思つてゐた。私に好きな男があつたら、結婚しても差支へないと考へてをり、それはつまり、彼自身、ほかのだれかと結婚したくなつてゐるせゐであつた。
「ミン平さんは私を養つて行けるかしら?」
「ダメだ
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