痴呆性をさとらず、現実に安住して、王者の如くに横行カッポし、太平楽で、身の程を知らない。
先生とかゝわりのある文科の学生は特別太平楽なのかも知れないが、常にタバコのケムリを絶やさず、ダンスをやり、泥酔し、学問は怠け、学業はそっちのけに怪しげな学生劇を興行して、酒手を稼いでいる。
そのことに就いて学生どもに訓戒の一席を弁じると、
「先生、ひがんでますね。先生も、ちょいともうけりゃ、いゝんじゃないかな」
と、ニヤニヤする。あげくに、なれなれしく先生の自宅を訪問して、
「先生、ヤミ稼ぎの一口、ゆずってあげましょうか。アリャ、先生、ずいぶん、物持ちだなア。タンスもあるし、鏡台もテーブルもあるよ。これだけ売りゃ、大ヤミの資本にもなるもの、先生、出資してくれないかなア。僕たち、何もないですよ。みんな資本に廻したのです。キタキリ雀、教科書も参考書も万年筆もないんです」
するとアキ子が喜びハリキッて、のさばりでて、
「そうよ、そうよ。当節ヤミ屋をやらなくって、どうするのよ。買う物がヤミ値ですもの。お金もヤミでもうけなくって、どうするのよ。あなたのキモノはまだタクサンあるじゃないの。本もあるしモ
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