る。その村では村民全部が剣術を使う。むろん村民は百姓でふだんは野良を耕していることに変りはないが、かたわら生れ落ちると剣を握って念流を習っているから、それぞれ使い手なのである。
 諸国の腕自慢の輩が武者修業の途中にちょッと百姓剣法をひやかしてやろうというので馬庭村へやってくる。野良の百姓に村の道場はどこだと尋ねて、この村の先生はクワの握り方と剣の握り方の区別ぐらいは心得ているだろうな、なぞと悪態をついて百姓をからかう。すると百姓がやおら野良から上ってきて棒きれを探して振りしめて、
「お前さんぐらいならオレでも間に合うべい。打ちこんできなさい」
 というような挨拶をのべる。何をコシャクなと武者修業が打ってかかるとアベコベに打ちのめされて肥ダメへ墜落するようなウキメを見てしまうのである。
 立川文庫の場合に於ては、一般に風変りなもの、たとえばクサリ鎌や小太刀や宝蔵院の槍など、別格視されるとともに、異端視され、時には敵役《かたきやく》に廻されたり負け役に廻されたり、あまりよい扱いを受けないのが普通で、子供たちの多くもクサリ鎌使いなぞは好まないのが普通であるし、また好まなくなるのが当り前の取り
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