読のあまり作家を師とも神とも恋人とも思いこむような婦人愛読者が、作家の作風によってはあると思うが、その結果、恋となり、結婚となっても、うまく行くとは限らない。大そう憎みあってケンカ別れとなった例もあったようだ。そしてそれもフシギではない。
菊乃さんがそれほどの愛読者だとは思われないが、愛読者であってもなくても、要するに十七年間肌身はなさず、というようなことは酒間のノロケには適当かも知れんが、それ以上に考うべきことではなかろう。それを機縁として結びついたにしてもそれは機縁となったことで役割を果し了り、後日まで残すべきことではないのである。恋愛や結婚生活にとってノロケのほかには伝説や神話は介在すべきものではない。伝説や神話はノロケでしかないということはそれほど実人生は厳しく、厳粛なものだということだ。配給された花聟花嫁を絶対とみる以外に自由意志のなかった昔の人々とちがって、恋の一ツもしてみようというコンタンを蔵している人間というものは人形とはちがう。心の裏もあれば、そのまた裏もあるし、その裏もある。悪意によって裏の裏まで見ぬくのは夫婦生活としては好ましくないが、相手のために献身的であろう
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