ッキリ云えることは、こういうゴタゴタに両者に納得できる論理は実在しないということです。しかし、正しい論理はあるのですよ。だが正しい論理があっても、両者をそれで納得させることは不可能だという意味です。その一ツの証明になるのが、この投書ですよ。
 しかし、非常に親切な調停機関があっても、この人の場合は、うまく両者が納得できて、各々幸福だというような解決をつけてあげられるか、どうか、疑問だと思います。
 まずこの事件の原因は夫が失職して妻が働いたのが失敗の元ですな。この夫は手記の中で(第一の投書)外地の生活は地位の低い方でもなかったというようなことを仰有《おっしゃ》るが、その同じような地位で内地の就職ができない、そして失職してるというような気持があるのでしたら、それが根本的にマチガイでしたでしょう。夫が失職して妻が派出婦になる。派出婦というものは、もしもこの夫のように職業に地位の高低があるとすれば、まず最低の地位の職業ですね。奥さんをそんな最低な仕事にだして一家の生計をたてる必要があるなら、旦那さんたるもの失職してる筈はあり得ませんや。派出婦に匹敵する低い地位の男の職業なら必ずある筈のもので
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