の精神病は、潜在意識をひきだして判明しうる苦労のタネからズルズルと衰弱にひきこまれている場合もあるでしょう。しかし、それが精神病の誘因であったにしても、要するに、なにか生理的な故障が起らなければ、幻視も幻聴もでる筈がないのさ。つまり機械のゼンマイだかどこかの部分が狂わなければ、そうなりはしない。潜在意識を解放したって病気は治らん。機械の故障を治さなければ病気は治りませんよ。
 しかし、分裂病の場合、逆行性健忘症の場合、機械の故障がどこにあるか、ということは、まだまだ、とても分りそうもありませんね。夢を見るのはどういう仕掛によるか、ということだって、全然分らんのだもの。否、眠り、ということすら、どこがどうしてどうなるのだか、それも分らんらしいね。幻視幻聴がどういう仕掛で起るかということは、分らんのが当然ですよ。記憶のヒキダシがどこにあるか、なぜ忘れるか、その生理的な故障の在りかは、とても分りませんね。
 私がお医者さんをパチンコ屋のオヤジだと云ったのは、そういうワケです。お医者さんには機械の故障がどこにあるのか分らないのだ。ただ、そうやると一時正常に返ることがあるようだから、電気やインシ
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