ュリンでショックの療法をやる。お医者さんが悪いわけではないでしょう。パチンコ屋のオヤジはちょッと勉強すればパチンコの機械の構造をのみこむことができるが、お医者さんの場合はいくら勉強してみても、目下のところはとてもとても機械の構造を見破り、故障やその原理を発見する見込みはありません。相手が悪いのです。精神病のお医者さんは楽観的かも知れないが、私は精神病の謎は永遠に解けないと思っていますよ。永遠に。というのは、つまり人間というものは恐らく永遠に、好む時に好む夢を見るような、自分の身体や精神のネジや合カギを持つことは不可能だろうという意味です。構造が分らなければネジも合カギも持てやしません。そして、精神を構造している機械の原理が分れば、人間は破滅さ。そうでしょう。人造人間で間に合うのだから。人間はすでに人間でなくて、機械ですよ。
要するに、精神病というものは、いつまでたっても、当てズッポウの療法以外に見込みがないね。いろんな方法を発明し、試みて、治る率を高めて行くことができるだけの話だろうね。
要するに、潜在意識を解いたって、病気の治療に関しては何の役にも立たない、ということだね。むしろ、潜在意識などというものに拘《こだわ》ることは、一ツの障碍にすらなっていますよ。なぜなら、原因を潜在意識にもとめると、人間の精神は全く必然というものになりおわり、したがって、精神病学上にはまったく人間の意志というものを認めていないようなテイタラクになり易いのですよ。どうやら精神病の先生は意志ある人間がおキライのようだ。
人間はみんな同じ悩みがありますが、しかし、みんなキチガイになるわけではない。そして、何がキチガイになることを防いでいるかというと、結局は意志ですよ。これ即ち、本能的な、潜在意識的な、原人的な必然の流れに反逆するところの力です。キチガイになることを防ぐには、意志の力にたのむのが最上でしょうね。私はそう信じていますよ。
私は電気やインシュリンショックはやらなかったが、持続睡眠法というのをやりました。強い催眠薬を用いて一ヶ月ぐらいコンコンとねむります。ねている最中には食事のたびに起きて食事したり、回診の先生と話を交したりします。もっとも全然コンコンとイビキをかき通してねむりつづける人もありますね。こういう人には看護婦が食事をたべさせてやるそうです。私はそれほどではなく、起
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