、三晩後、しづは板の間でジュウタンをしき別に床をとって独寝し、羽山は重大な侮辱をうけた。羽山はしづの真意を解するに苦しむも、誠心誠意をもって、時には媚態を呈し、種々話しかけたが、しづは口をとざし、頑として答えなかった。
羽山は万策つき、加藤律治氏にその由を打明けるなど努力したが、そのうちしづは「最初から羽山は好きではない、側からよいよいといわれ結婚しただけで、寝床を別にするのは子供が出来ないようにするためだ」と公言し、羽山との婚姻を破棄し、婚姻予約を履行せざることを確認した。
羽山はしづの許に寄寓し、多くの得意を失った損害は実に甚大である。さらに、しづのため男子一生の童貞を破壊されたことの精神的打撃は言語に絶する。
よって、物質上の損害は、金十万円、精神上の損害は慰藉料金二十万円に値いするものである。
中山しづの姉婿、クリーニング業加藤律治の証言
しづは私の家内の妹です。新婚後の住居については現在住宅難の時代でもあり、しづは一人で店の留守番をしているのだから、世の中のおさまりがつくまで、しづの所で働いた方がよかろうと申しました。
しかし、しづは結婚前の交際の頃、二人で東劇
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