「風蝕」
 黄土地帯か氷山か。この作者が風蝕という言葉を知っていたという意味の絵。
「信仰の女」
 ハダカの女の子がいて、腰のあたりから空中へ煉炭がゾクゾクと舞い上って行くぞ。電気もガスも自由に使えるようになったから煉炭を昇天させようというのかな。イヤイヤ。又、戦争があるようだから、神の力で煉炭をシコタマ貯蔵しましょうという念力の絵かも知れない。
「青春」
 双子の大根か蕪《かぶ》かと思うとオッパイだ。オッパイが空をとんで、手がもがいてる。小さい太陽、蝶もとんでる。このオッパイがお寺の吊鐘よりも大きい。絵具代が大変だナア、ということをシンミリ考えさせる絵。
「虚無と実存」
「芸術哲学」
 彼らは教祖代理はつとまらない。せいぜい指圧の出張療法をしている最中のところで、その説教はチンプンカンプン、誰も分ってくれない。絵具代をだしてくれたのは誰か、ということが主として気にかかる絵。
「森の掟」
 この中に何匹の動物と人間が隠れているか一生懸命に探しなさい。馬だか狼の顔にチャックがついてるのは、当った人に、中から懸賞金をだしてあげる、というツモリにしてくれ、というような意味で見てもいいじゃねえか、そうだ、そうだ、という絵。
「漁夫の夢」
 真ッ赤な女の大きな絵。××火災保険賞が授与されているのは、赤い色に対する当然な報酬であるということが心ゆくまで分る絵。
「執着獅子」
 帯の模様には、雑であるが、間に合うかも知れん。しかし、どうも、雑であるな。
「白蛾」
 たしか白蛾という支那料理屋があった。イヤ、博雅かな。どッちでもいいや。一尺もある緑発と紅中とパイパンがかいてあるよ。白い蛾も押しつけてある。ハダカの女が悩んでいるし、ラジオもあるよ。
「私はこんな街を見た」
 そうか。そう言われれば仕方がない。ウソツケ、と怒るわけにもいかないからナ。
「詩抄千恵子恋」
「春のめざめ」
「チャタレイ夫人」
 あんまりハッキリ云いなさんな。題だけは分ったが、しかし、そんなもんじゃないでしょう。
「群鳥の夜」
「鳥を飼う男」
「※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]と料理人」
 第一ヒントを与えたから、よく考えて見てくれ、という絵。
 以上はザッと、まだ絵の体裁をなしている方かも知れない。このほか数十点、黒い色と白い色がぬたくッてあるだけ、製図の線がひいてあるだけ、牛の骨があったり、火星人らしきものがいたり、ミイラのようなのがゴチャゴチャいたり、全然意味をなさぬ色と物体があったり、大部分が、とるにも足らぬコケオドシである。
 私が二科を見て最も痛切に思ったことは、審査風景を見たい、という一事であった。どんな理論を述べあって、これらの謎々の絵を入選させたり、落選させたりするか。イヤ、そこは教祖ぞろいのことであるから、黙々と微笑して膝をうち、以心伝心、満場一致するのかも知れん。
「二科三十五人像」といって、二科の三十五人の教祖をズラリと描いた十尺四方もある大作があった。チャンと教祖を祭るにソツはない。おサイセンやお花があがっている代りに努力賞というものが具えてあった。

          ★

「胃袋を大切にしなさい。胃袋を。大学をでる。役人になる。一週五回以上の鯨飲馬食に耐えねばならぬ。頭は必要ではない。中国、ニッポン、朝鮮。主として胃袋のぜい弱なる者は指導者の位置につけない国。頭を使うと胃ブクロへ行く血液がへる。危険。胃ブクロを使うと頭に行く血液がへる。安全。要するに頭を使うと不幸になる。だから、立派な部屋には、いつも胃ブクロがいる」(アサヒグラフ「魚眼レンズ」より)
 これはジャーナリズムの諷刺であるが、この結論にしたがって、立派な部屋に胃ブクロの絵を書いているのが、二科の謎々だと思えば、まず間違いはない。
 もっと高尚で複雑だという作者があれば、イヤ、それはもっとデタラメで本人もワケが分らんという意味だ、と私は言いかえすツモリなのである。
「魚眼レンズ」の諷刺は、文章によって巧みに戯画を描いてみせている。最後の結論に至って、諷刺の本領を発揮し、巧みに視覚的な幻像を与えている。しかしこれは文章に構成され、最後に視覚に訴えるまでの文章の綾があって、はじめて戯画が生きてくるのだ。これは視覚に訴えるにしても、文章の力であり文章の世界なのである。
 試みに、「魚眼レンズ」に最後の結論だけをのせて、「立派な部屋にはいつも胃ブクロがいる」と云ったところで、なんの力もない。諷刺にもならなければ、謎々の問題にもなりやしない。この謎々をとけ、それが文化というものだ、知識というものだ、とでも考える仁があるとすれば、滑稽怪奇ではないか。
 ところが、二科の教祖ならびに弟子は、概ね、これをやらかしているのである。
 絵は言葉によって語るものではなくて、色によって語るも
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