ちゃん、スターになりましたか」
「いいえ。脚本どすわ。このところ、ひッぱりだこや。忙しそうにしてはりますわ。身持もようなって、感心なもんや」
 浅草で大阪弁とはケッタイな。こう思うのは素人考えというものである。浅草は大阪と直結しているところだ。この店の名が染太郎、オコノミ焼の屋号であるが、元をたずねれば漫才屋さんのお名前。種をあかせば、納得されるであろう。浅草人種は千日前や道頓堀と往復ヒンパンの人種でもある。
 淀橋太郎は浅草生えぬきの脚本家であるが、終戦後突如銀座へ進出して銀座マンの心胆を寒からしめた戦績を持っている。今から三年ほど前、日劇小劇場にヘソ・レビュウというのが現れて人気をさらったのを御記憶かな。このヘソ・レビュウの発案者、ならびにヘソ脚本の執筆者が淀橋太郎であった。つまりストリップの元祖なのである。
「ヘソをだしゃ、お客がきやがんだからな。バカにしやがる」
 元祖は酔っ払って嘆いていた。長い年月軽演劇というものに打ちこんできた彼にしてみれば、女の子がヘソをだすや千客万来とあっては残念千万であったろう。
「こうなりゃア、お定ですよ。もう、ヤケだよ。ホンモノのお定を舞台へあげ
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