の智能犯になると、兇器などというものは所持してもいないし、使ったこともない。温泉旅館というものの宴会、酔っ払い、混雑という性格を見ぬき、万人の盲点をついて、悠々風の如くに去来していたにすぎない。どの芸者とくらべても、彼の方が小さかったというほどの五尺に足らない小男で、女形のようなナデ肩の優男であるというから、兇器をふりまわしても威勢が見えないという宿命によるのかも知れないが、同じ泥棒をやるなら、彼ぐらい頭をはたらかして、一流を編みだしてもらいたいものだ。
私は探偵小説を愛読することによって思い至ったのであるが、人間には、騙されたい、という本能があるようだ。騙される快感があるのである。我々が手品を愛すのもその本能であり、ヘタな手品に反撥するのもその本能だ。つまり、巧妙に、完璧に、だまされたいのである。
この快感は、男女関係に於ても見られる。妖婦の魅力は、男に騙される快感があることによって、成立つ部分が多いのだろうと思う。嘘とは知っても、完璧に騙されることの快感だ。この快感はまったく個人的な秘密であり、万人に明々白々な嘘であっても、当人だけが騙される妙味、快感を知ることによって、益々孤
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