いうことで、十二レースのうち九レースは配当を受けとり、その配当で次の券を買ったという意味だ。ちなみに、第一日目は一度も配当がなく、毎レース毎に両替屋へ行かねばならず、ジャンパーの手前、両替の娘の子にも恥しい思いをしたし、配当をうけとる人々を眺めながら、なんたる奇蹟の人種かと舌をまいていたのだ。私はだいたい一レースに千五百円平均ぐらいずつ券を買った。そして、試みたのである。その試みの詳細は追々物語ります。
 第二日目には三千円ほどの損でくいとめたから、三日目はいよいよ三十万円の大モウケだと、宿屋の寝床の中でアレコレ秘策をねり、こころよく熟睡したが、翌日はなんぞはからん、第十レースにして所持金全額を使い果し、一敗地にまみれて明るいうちに伊東の地へ立ち帰る仕儀と相成ったのである。わが家に於ては小生が有金全部失うこと必定とみて、すでに東京に赴いて金策を果し、敗軍の将をねぎらうに万全の用意をととのえていたが、このへんは近来の美談と云うべきであろう。
 その三日の間に、私は競輪の選手と予想屋を招待して、その話もきいた。役人を間に立てて選手と話しても何にもならないから、やわらかい方面から渡りをつけて
前へ 次へ
全25ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング