ますと、もう、とっぷり夜になっていて、私の枕元では、益々酒宴はタケナワとなっているのを発見するのである。仕方がないから、また相手になって、ねむたくなって、
「オイ、もう、とてもダメだから、君は君の部屋へひきあげて、のんでくれよ」
 と云うと、
「ヤ、そうですか。じゃア、ウイスキーもらって行きます。それから、奥さんに来ていただいていゝですか」
 といって、田中と女二人が行ってしまう。田中の部屋では、田中と女二人でトランプをして、その間中、田中はウイスキーとビールを呷《あお》りつゞけているのである。
 ロスアンゼルス出場のオリムピック・ボート選手、六尺、二十貫。彼は道々歩きながらウイスキーをラッパのみにするのが日常の習慣で、したがって、コップに波々とついだウイスキーを、ビールのようにガブガブのむ。
 私は胃が悪いので、小量で酔う必要があって、ウイスキーをのんでいたが、あの当時は、熱海にはウイスキーがないので、東京の酒場からウイスキーとタンサンを運んでもらっており、いつも一ダースぐらいずつストックがあった。そのストックを田中英光は三日間で完全に飲みあげてしまったのである。
 田中と飲んでいる
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