安吾巷談
麻薬・自殺・宗教
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)呷《あお》りつゞけている
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)グル/\
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伊豆の伊東にヒロポン屋というものが存在している。旅館の番頭にさそわれてヤキトリ屋へ一パイのみに行って、元ダンサーという女中を相手にのんでいると、まッ黒いフロシキ包み(一尺四方ぐらい)を背負ってはいってきた二十五六の青年がある。女中がついと立って何か話していたが、二人でトントン二階へあがっていった。
三分ぐらいで降りて戻ってきたが、男が立ち去ると、
「あの人、ヒロポン売る人よ。一箱百円よ。原価六十何円かだから、そんなに高くないでしょ」
という。東京では、百二十円から、百四十円だそうである。
ヒロポン屋は遊楽街を御用聞きにまわっているのである。最も濫用しているのはダンサーだそうで、皮下では利きがわるいから、静脈へ打つのだそうだ。
「いま、うってきたのよ」
と云って、女中は左腕をだして静脈をみせた。五六本、アトがある。中毒というほどではない。ダンサー時代はよく打った
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