のである。白髯サマとはコマ系のもっと始祖的な、あらゆるコマ系の人々に祖神的な誰かを指しているのだろう。若光のように実在的なものではなく、もっと伝説的なものと考えた方がよろしいようだ。
 私は白髯サマの御本体を見せてもらった。いっぱんに白髯サマとか同系統の帝釈サマ聖天サマなどは陽物崇拝とか歓喜仏のようなものを本尊にしているように云われているが、コマ神社の白髯サマはそうでなかった。
 一尺ぐらいの木ぼりの坐像だが、およそ素人づくりのソマツな細工で、アゴに白髯のゴフンが多少のこっている。しかし、まことに素朴で、感じのよいものだ。非常にソマツなこわれたような木の箱に納めてあるのも、その方がむしろピッタリしていて、はるか昔この村に移住した貴族の悲痛な運命や、トボケたような生活などにふさわしく、お宮すらもオソマツなホコラにした方がその人の運命にふさわしく、また我々の身にしむような感もあった。
 この白髯サマの御神体は一見したところ五六百年以前の作品らしいと見うけられたが、あるいはそれ以上にもさかのぼりうるのか私には分らない。あるいは、カットの写真の獅子面の古い方と同じぐらいまでは、さかのぼりうるの
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