うになっている。
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[#ササラ獅子舞いの笛の音の表(fig45910_01.png)入る]
[#ここで字下げ終わり]
こんなのが、四十四段ある。
ヒヤロ、ヒヤヒヤロ、というようなのは、いかにも笛の音のようだが、それはよそのお祭りの笛の音で、このお祭りの笛はそんな陽気な笛の音ではない。
「もういいかアーい」
「まアだだよーオ」
というのに似たような単調な繰返しがあるだけで、いくら舞いの段が変っても笛の音の方に変化はない。昔は変化があったにしても今の単調な繰返しに考え合せれば、いかに昔が多彩であろうとも、この譜のような複雑な曲は考えられないのである。段によっては、笛の譜の代りに日本語の唄になってるのもある。だから、笛の譜と称するのも、昔のコマ言葉の唄なのかも知れない。全部がそのまま言葉にしては、単調すぎて異様であるが、至極単純な句とハヤシ言葉の合成したものかも知れない。
これにやや似たようなのはカグラやサイバラにも見かけられるし、猿楽、能楽にも似たようなのが見うけられる。ところで、私はこれをいじりまわしているうちに、一ツのことに気がついた。
この笛の譜と称するもので、最も多く現れるのは、ウ、ト、ヒ、ヤ、リ、ル、口の七音の組合せによるものである。これを組合せたものは全部で次の通りになる。
ヒ行[#「ヒ行」は太字]
ヒ
ヒー
ヒト
ヒート
ヒヒ
ヒーヒ
ヒーヒヤヒヤロ
ヒヤ
ヒヤト
ヒヤヒ
ヒヤヒト
ヒヤヒヤ
ヒヤーヒヤ
ヒヤヒヤウ
ヒヤヒヤヒ
ヒヤヒヤリ
ヒヤヒヤロ
ヒヤヒヤリロ
ヒヤリ
ヒヤリコ[#「コ」に傍点]
ヒヤリコ[#「コ」に傍点]ロ
ヒヤリト
ヒヤリロ
ヒヤリロリ
ヒヤロ
ト行[#「ト行」は太字]
ト
トト
トヒ
トヒトル
トヒヒヤヒ
トヒヤ
トヒヤウ
トヒヤヒ
トヒヤヒヤヒ
トヒヤリ
トヒヤリロ
トヒロ
トヒロヒ
トリ
トル
トルヒヤ
トルヒヤロ
トルト
トロ
ウ行[#「ウ行」は太字]
ウ
ウニ[#「ニ」に傍点]ヤ
ウニ[#「ニ」に傍点]ヤウニ[#「ニ」に傍点]ヤ
ウニ[#「ニ」に傍点]ヤリ
ウニ[#「ニ」に傍点]ヤリ
ウヒ
ウヒヤ
ウヒヤリロ
ウヒヤロ
リ行[#「リ行」は太字]
リヒヤリロ
ロ行[#「ロ行」は太字]
ロ
ロヒ
ロリ
となっており、ウ、ト、ヒ、ヤ、リ、ル、ロのほかに稀にコとニが使われているが、これは片手の指で数えるほどしかない。全語数(かりに語とよぶが)の九割以上を占めるのが右の通りで以上主としてたッた七ツの音の組合せで出来ているものである。
ただ第三十七段に「チトラル」という特別の段があり、ここだけは主として全く別個の音で語をなし、これを整理すると、次の十語の組み合せで出来ている。即ち、
ラ
ウラ
ラル
ラルラ
トル
トルラ
トルラル
トラル
チトラル
デコデンデン
この十語のうち、前表中に見出すことのできるのは「トル」の一語あるのみである。
以上のほかに、前掲の主たる七音と他の音とを組み合せて語をなし、しかも極めて少数しか現れないものに次のようなものがあり、これは若干言葉らしいオモムキをそなえているようだ。
ジョウジョウネコ
ホホールト
ホール
トッピャッピ
オカザキ
デコデンデン(前掲)
ダンコクサイ(又はダンゴグサイ)
ゾンゾロシガ
シルコラタレ・タータ
チトラル(前掲)
ドコニイタイタ
ドコニウ
以上で全部である。これを組み合せたのが四十四段の楽譜であるが、ジョウジョウネコなどというのはあるいは人名かなア。オオタタネコだのナニワノネコ武振熊《タケフルクマ》だのと云うように。
「ドコニイタイタ」は獅子がササラッ子の中に隠れた段に発せられ、
「どこに行った行った?」ではないかと云われているが、するとそれにつづく、
「ドコニウ、ヒヤヒヤ」
は、どこにも居ない居ない、というような意味であろうか。
さて、以上の全ての語を合せても、これをアイウエオに合せてみると、全然使用されない音がたくさん現れる。清音では、
「ア、エ、ケ、ス、セ、ソ、テ、ナ、ヌ、ノ、ハ、フ、ヘ、マ、ミ、ム、メ、モ、ユ、ワ」
等、二十にも及ぶものが全く使われていない。
濁音と撥音では、使われている方が例外のように少数で、わずかに、
「ガ、ザ、ジ、ゾ、ダ、デ、ド、ピ」
の八ツ使われているだけで、他の十七は使われていない。濁音と撥音の使用が少いのが目立つのである。
結局、アイウエオの各行中に一行全部が使われているのは「ラリルレロ」だけ。これに反して「マミムメモ」と「バビブベボ」は一度も使用せられず、また「パピプ
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