商店へ買い物に行くと、これは出来が悪いから良い品が来たとき買ってくれ(よそ出来の製品を売る洋品屋でもそう云う)と云う店と、さかんによその店の悪口をならべたてながらあまり良からぬ品をうりつける店と二ツのタイプがある。前者もタクミのカタギであろうが、後者とてそうで、タクミの中にもヘタもいるしヘタのくせに悪口は一人前に云う。世界中のタクミに共通する気質の一ツだろう。しかし、この二ツの差が甚しくて、実に一方の方はウンザリするほどよその悪口を言いたがりますよ。しかし商人のタクミ気質にも拘らず高山の細工物は必ずしもタクミ的ではない。やや良き物もあるが、甚だ悪い物も少くない。人麻呂時代にかえるべし。人麻呂は歌っていますよ。
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かにかくに物は思はずヒダたくみ打つ墨縄のただ一筋に
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底本:「坂口安吾全集 11」筑摩書房
   1998(平成10)年12月20日初版第1刷発行
底本の親本:「文藝春秋 第二九巻第一二号」
   1951(昭和26)年9月1日発行
初出:「文藝春秋 第二九巻第一二号」
   1951(昭和26)年9月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※底本の二重山括弧は、ルビ記号と重複するため、学術記号の「≪」(非常に小さい、2−67)と「≫」(非常に大きい、2−68)に代えて入力しました。 
入力:tatsuki
校正:深津辰男・美智子
2010年1月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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