安吾の新日本地理
長崎チャンポン――九州の巻――
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)切支丹《キリシタン》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)切支丹|伴天連《バテレン》
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急行列車が駅にとまると、二人か三人の私服刑事らしき人物が車内の人物の面相を読みつつ窓の外を通りすぎる。私の終戦後の遠距離旅行はこの正月からのことであるから、こういう人物の駅々の影のような出迎えがいつごろから始まったのか知らないが、月を追うてこの出迎えが厳重に、どの駅でも規則正しく行われるようになってきた。
これには無論それだけの理由があるに相違ない。まず共産党幹部の地下潜入、朝鮮戦乱や国際情勢の悪化につれて国外からの密入国や国内からの脱出などゝモグラ族の移動往復が相当ヒンパンであろうから、イヤでも交通の要所々々に目玉を光らせる必要があるのであろう。
交通路の要所に関所をかまえて目玉を光らせるという方法は大昔からのことであるが、義経がどっちへ逃げたか、豊臣の残党がどうしたか、と云っても、その取締りは案外に無邪気なもので、草の根を分けてもという全国一丸の
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