阿部定さんの印象
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)圧《お》しつぶされた
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いとしい/\
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阿部定さんに会つた感じは、一ばん平凡な下町育ちの女といふ感じであつた。東京下町に生れ、水商売もやつてきたお定さんであるから、山の手の人や田舎育ちの人とは違つてゐるのが当然だが、東京の下町では最もあたりまへな奇も変もない女のひとで、むしろ、あんまり平凡すぎる、さういふ感じである。すこしもスレたところがない。つまり天性、人みしりせず、気立のよい、明るい人だつたのだらうと思ふ。
この春以来、私の家の女中は三度変つた。そのうち二人は東京の下町そだちで、一人は天理教、一人は向島の婆さん芸者であるが、この二人はどう見ても変質者としか思はれず、ヒネくれたところや歪んだところがあつたが、お定さんには、さういふ変質的なところが少しも感じられない。まつたく、まともな女なのである。お定さんの事件そのものが、さうなので、実際は非常にまともな事件だ。
僕がお定さんに、なんべん恋をしましたか、と云つた
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