い登れ! 竹竿を振り廻し給え。観衆の涙に媚び給うな。彼等から、それは芸術でない、ファースであると嘲笑されることを欣快とし給え。しかしひねくれた道化者になり給うな。寄席芸人の卑屈さを学び給うな。わずかな衒学をふりかざして、「笑う君達を省みよ」と言い給うな。見給え。竹竿を振り廻す莫迦が、「汝等を見よ!」と叫んだとすれば、おかしいではないか。それは君自身をあさましくするだけである。すべからく「大人」になろうとする心を忘れ給え。
 忘れな草の花を御存じ? あれは心を持たない。しかし或日、恋になやむ一人の麗人を慰めたことを御存じ?
 蛙飛び込む水の音を御存じ?



底本:「坂口安吾選集 第一巻小説1」講談社
   1982(昭和57)年7月12日第1刷発行
底本の親本:「青い馬 創刊号」岩波書店
   1931(昭和6)年5月1日
初出:「青い馬 創刊号」岩波書店
   1931(昭和6)年5月1日
入力:高田農業高校生産技術科流通経済コース
校正:小林繁雄
2006年7月4日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.g
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