けるな。アンコウの目鼻をナマズのカクに刻みこんだそのお前だ」
「エッヘッヘ。主観の相違だねエ。わからない人には、わからないものだ。つきましては、サの字に申しあげますが」
「なんだい、サの字てえのは」
「それはアナタです。この正月に芸者の一隊が遊びに来やがったじゃないか。そんとき、文学芸者の小キンちゃんが文学相撲の五郎ちゃんに対決しようてえので、論戦がありましたよ。小キンちゃんの曰くサルトルはいかゞ、てえ時に、関取なるものが答えたね。ハア、サルトルさん。二三よみましたが、あれは、いけません。そのとき以来、サルトルさんと申せば近隣に鳴りとゞろいております」
「なにを言ってやがる。お前じゃないか。せんだっての小学校の卒業式に演説しやがったのは。これからは、民主々義、即ち文化の時代である。もはや剣術は不要であるから、芸術を友としなければならぬ。剣術も芸術も、ともに術である。ともに術だから、どうしたてんだ。ワケのわからないことを言いやがる。我々は江戸キッスイの町人の子孫であります。我々の祖先も剣術も知らず、芸術を友といたしたのである。そのころもエロであった。然し、諸君よ、エロも芸術でなければなら
前へ
次へ
全27ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング