唄のうたえるニューフェース、これこそ彼らの熱烈にもとめてやまぬ珍品ですよ。飲食店のたゞの給仕女になるなんて、天分ある御方が、それは全然つまらないことですよ。いかゞですか。ひとつ、何くわぬ顔、この店の給仕女に身をやつして、チャンスを狙っては」
「そうね。それもちょッとしたスキャンダルね。意味なきにしもあらずね。やってみても悪くないと考えるわね」
「えゝ、そう、そう。先方の御三方がよろこびますよ。世に稀なるもの、即ち天才です。実はです。以前にも一人、その狙いで千鳥波の給仕女に身をやつした婦人がありましたです。この人は天分がなかった。当人も自信がないんですよ。それで、なんです。色仕掛で仕事を運ぼうと企んだわけですが、これこそすでに陳腐です。あの御身分の方々ともなると、色仕掛でスタアを狙うヤツ、これぐらいどこにもこゝにもあるという鼻についたシロモノはないんですよ。食傷して、ウンザリしきっているのです。ですから、真実天分ある者は、率直に天分をヒレキすれば足るのです。むしろ御機嫌などとらない方がよろしいです。ですから、御三方が現れたら、サービスなどほったらかして、何くわぬ顔、唄をうたいなさい。例の
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