して生活自体が発見されてゐるのである。
問題は単に「家庭」ではなしに、人間の自覚で、日本の家庭はその本質に於て人間が欠けてをり、生殖生活と巣を営む本能が基礎になつてゐるだけだ。そして日本の生活感情の主要な多くは、この家庭生活の陰鬱さを正義化するために無数のタブーをつくつてをり、それが又思惟や思想の根元となつて、サビだの幽玄だの人間よりも風景を愛し、庭や草花を愛させる。けれども、さういふ思想が贋物にすぎないことは彼等自身が常に風景を裏切つてをり、日本三景などといふが、私は天の橋立といふところへ行つたが、遊覧客の主要な目的はミヤジマの遊びであつたし、伊勢大神宮参拝の講中が狙つてゐるのも遊び場で、伊勢の遊び場は日本に於て最も淫靡な遊び場である。尤も日本の家庭が下等愚劣なものであると同様に、これらの遊び場にもたゞ女の下等な肉体がころがつてゐるにすぎないのである。
夏目漱石といふ人は、彼のあらゆる知と理を傾けて、かういふ家庭の陰鬱さを合理化しようと不思議な努力をした人で、そして彼はたゞ一つ、その本来の不合理を疑ることを忘れてゐた。つまり彼は人間を忘れてゐたのである。かゆい所に手がとゞくとは漱
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