しいことをも愛するのである。人間が正しいもの、正義を愛す、といふことは、同時にそれが美しいもの楽しいものゼイタクを愛し、男が美女を愛し、女が美男を愛することなどと並立して存する故に意味があるので、悪いことをも欲する心と並び存する故に意味があるので、人間の倫理の根元はこゝにあるのだ、と私は思ふ。
人間が好むものを欲しもとめ、男が好きな女を口説くことは自然であり、当然ではないか。それに対してイエスとノーのハッキリした自覚があればそれで良い。この自覚が確立せられず、自分の好悪、イエスとノーもハッキリ言へないやうな子供の育て方の不健全さといふものは言語道断だ。
処女の純潔などといふけれども、一向に実用的なものではないので、失敗は成功の母と言ひ、失敗は進歩の階段であるから、処女を失ふぐらゐ必ずしも咎むべきではなからう。純潔を失ふなどゝ云つて、ひどい堕落のやうに思ひこませるから罪悪感によつて本格的に堕落の路を辿るやうになるので、これを進歩の段階と見、より良きものを求める為の尊い捨石であるやうな考へ方生き方を与へる方が本当だ。より良きものへの希求が人間に高さと品位を与へるのだ。単なる処女の如き何
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