無頼漢にも劣らない卑劣なことが、よくもまア、おできになったものですね。病院の出張診療ももはや御無用に願います」
と云って、完全に縁がきれてしまった。この病院の大浦博士の出張診療は、この病院の看板であるから、衣子が博士とのクサレ縁をきることができなかった理由の一つは、その利害にもよるのである。博士はそれを見抜いているから、婆さん慾にからんでいると見くびっていた。腹を立てゝも、この病院の一枚カンバンはおろすわけにはゆくまい、とタカをくゝっている、そこをやられて驚いた。博士の方にしてみても、大学教授ではインフレがのりきれないから、これをやられると、糧道をおびやかされる。
博士はひと先ず引きあげたが、あゝは云っても、あの病院の大切なカンバン、折れてこない筈はない、と、電話をかけて、ためしてみても、何日すぎても形勢の変る見込みがない。
仕方がないから、私を訪れてきて、
「あの病院、僕がやめたら成立ちゃしないだろう。先方も、今さら後悔しても、行きがゝりの勢い、内々困っているのだろうから、三船君、君が行って、こだわらなくともよいから、安心させてやりたまえ」
「そうですか。先生の意志はお伝えして
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