嬢さんの行方を探しているそうです、と言ってもらうことにした。
 社にいると大浦博士がやってくる怖れがあるから、ヤス子を誘いだして、
「実は、ヤス子さん、お願いがあるのですが、あすの旅行に欠席してもらいたいのです」
 こう、きりだしておいて、私も意を決し、計略を立てゝきたのであるから、ヤス子を近郊の温泉旅館へ案内して、昼食をたべた。
 こういうことは、ハズミというもので、だいたい色事はそんなものだ。衣子に別れる。すぐその足で別の女を口説きたくなる。これがハズミで、変に度胸のこもった決意がかたまるものである。
 まア落付いて話しましょう。こゝはつまり、鉱泉といったって、実はアイビキ旅館ですがね、これも後学のためですよ、などゝヤス子を案内してきたが、ヤス子は平然たるものであるが、テーブルに向いあってキチンと坐って、いさゝかも油断なく、厳然古武士のような正座である。私は遠慮なくくつろいで、お酒をのんだ。
「さて、先刻の話ですが、この旅行、なぜ欠席していたゞきたいか、実は大浦先生のコンタンが癪にさわるからなんです。もちろん、おわかりのことでしょうが、大浦先生の目的は、失踪者の捜査じゃなくて、ヤス
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