たくない。
私はどうやらアベコベに、衣子のヤケクソに便乗して待合の門をくゞったが、もとよりそれはここをセンドと私が必死に説得してのアゲクであるが、それとは別に、私はやっぱり淋しかった。
「遊びですよ、奥さん。大浦先生と違って、私は遊びということのほかに、何ひとつ下心はないのです。私はあなたに何一つ束縛は加えませんし、第一、いつまでも、あなたと云い、奥さんとよび、遊びは二人だけのこと、死に至るまで、これっぱかしも人に秘密をもらしは致しません。私はたゞ奥さんを心底から尊敬し、また愛し、まったく私は、下僕というものですよ」
酔い痴《し》れた衣子は、然し、もうこんな理窟は耳にきゝわけられなかった。
「どうなったって、いゝですよ。野たれ死んだって、私はいゝのよ」
と、衣子は廻らぬロレツで、私の肩にすがりついて、よろめいている。それはまだしもであるが、
「ねえ、あなた」
ふと酔眼に火のような情慾をこめて私を見る。もとより理知ある人間のものじゃなくて、キチガイのものだ。私はいさゝかふるえた。泣きたかった。やるせないものである。とは云いながら、私の胸は夢心持にワクワクしてもいるのである。
衣
前へ
次へ
全106ページ中67ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング