学時代からの精勤であった。そして私は自然のうちに金龍姐さんの幕僚になっていたのである。
 私は金龍にコキ使われ、嘘をつかれ、だまされ、辱しめられ、そして手切れだの間男の尻ぬぐいだのに奔走した。
 私は然し平然として、腹をたてず、お世辞をつかい、惚れているが、思いがとげられないような切ない素振りをみせた。そうすることが、姐さんの気に入ることが、自然に分ったからである。
 それは私の本心でもあった。金龍姐さんの凄腕や薄情ぶりには私もホトホト敬服していた。男なんか屁とも思っていないのだ。そして男をだますことがたのしいのである。たのしいのだか、どうだか、そこまでは知らないけれども、生れつきがそういう天性の根性で、六代目が素敵だとかハリマ屋がどうとか、そんな芸者なみの量見は全然ない。尤も、なんでも知っているし、見てもいる。それも男をだます技術の一つであるからで、三味線や唄も達者なのだが、それがダマシの技術上必要な時でなければ用いたためしはない。万事につけてその筆法で、その意味の専門技術士であった。
 私は酒間に、わざと、何年間と思いやつれている人がいるんだけど、一晩ぐらい、なんとか、ならないもの
前へ 次へ
全106ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング