かはさせておかないと言う人がアチラコチラから現れてくるだろうがな」
 と、女中を相手に、からかいながら、待っている。
 種則の帰るを待って、茶の間へヌッと推参、もとより、御不興は覚悟の上である。衣子はイマイマしげに、また、いかにもウルサげに、ジロリと一べつ、顔をそむけて、喋らない。
「いかなるテンマツとなりましたか」
「どんなテンマツがお気に召すのですか」
 ハッタと、にらむ。私はビックリ、すくみながら、その色気に目を打たれて、ひそかに満足する。
「当家と大浦家の仲たがいが、血の雨でも降ることになったら、御満足なんですか。ゴセッカイに、チョロ/\、なに企んでいるのです」
「チョロ/\何を企むったって、屋根裏の鼠がひそかにカキモチを狙うんじゃあるまいし、それは、奥さん、あんまりですよ。私だって、一人前の男、四十歳、多少の分別はありますよ。失礼ながら温室育ちの奥さんに比べりゃ、数等世情に通じているからこそ、見るに見かねて、いえ、やむにやまれぬオセッカイ。ほんとですとも。毒殺ぐらい覚悟の上で、いえ、失言ではありません。坊主と医者てえものは気が許せませんや。年中扱いなれていやがるから、トンマな
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