で私が、
「どうだい、アヤちゃん。あなたと私の即製コンビで、お手伝いをしようじゃないか」
「あんた、できる?」
「やってみなきゃア分らないやね。然し、なんとか、なるでしょう。お客さん方も幕を睨んでいるよりはマシだろう。まさか舞台へとび上ってヒッパタキにくることもなかろうさ」
というわけで、着物を拝借して、高座へ上った。なんとか呼吸も合い、私が浪花節を唸ったり、ヒッパタかれてノビてみせたり、ハデなもので、それから十日間ほど、やった。思うに第一回目が最上の出来で、このときは気持に特別のハリがこもっていたせいか、却ってスラスラ、うまく呼吸もあい、ハデな珍演も湧出というていであったが、芸ごとゝいうものは本腰にかゝると全然ウダツがあがらぬもので、三日四日とだんだん自分のヘタさが我が目に立つばかり、自縄自縛というものだ。
ところでその何日目かのことであるが、私が大学の三年間、親の脛《すね》をかじりながら、安値に遊ばせて貰ったさる土地の、私のナジミの妓を抱えているのが土地の名題の姐さんで、金龍という、この姐さんがジロリの女であった。
私のナジミの妓は照葉という平凡な、いつも金龍に叱りつけられて
前へ
次へ
全106ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング