ジロリの女
――ゴロー三船とマゴコロの手記――
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)交驩《こうかん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大学生|幇間《ほうかん》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ベタ/\
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 私は人の顔をジロリと見る悪い癖があるのだそうだ。三十三の年にさる女の人にそう言われるまで自分では気づかなかったが、人の心をいっぺんに見抜くような薄気味わるさで、下品だという話だ。それ以来、変に意識するようになり、あゝ、又やったか、そう思う。なるほど、我ながら、変に卑しい感じがする。魂の貧困というようなものだ。男にはメッタにやらぬ。自分では媚びるような気持のときに、逆に変にフテブテしくジロリとやるようなアンバイであるらしい。然し、どんな時にジロリとやるのだか、自分にも明確には分らず、その寸前に、あゝ今、やるな、と思うと果してジロリとやるグアイで、意識すると、後味の悪いものだ。
 けれども、三十三の年までは、自分のことには気がつかず、女の人が私に対して、そうするのだけが、ひどく切なく
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