ってるのに、ポカポカなぐられちゃって、運が、わりいよ。オレのオフクロ、子供んときから、成田のオマモリなんか持たせやがって、それが割れちゃったりして、つまらねえことまで、ネザメが悪くって、どうも、気分がよくねえよ。人を、まちがえちゃ、いけねえなア。心細く、なっちゃうよ」
三分か、五分ぐらい、たった。国際親善紳士は、だまって、睨みつけている。
花田は、ぶっ倒れて、鼻血をさかんに吹きあげて、依然、目をとじたまゝ、微動もしない。死んだのか、生きているのか、意識があるのか、ないのか、分らない。
国際親善紳士が、スックと立ち上った。片彦はバネ仕掛にとび上って、逃げ腰となって、
「いけねえな。心臓が、弱くなるよ。オレは、全然、ちがうんだから、まちがえちゃ、いけねえなア。危ぶねえなア。オット、いけねえ」
「つまみだせ」
秘書に云い残して、大紳士は立ち去った。
「ハア、ボクが、つまみだします」
片彦は肩幅一メートル氏の顔色をうかゞいながら、
「たのみます。つまみだしても、いゝですか。死んでるのかな。いいですか、ゆさぶッても。オレを、なぐっちゃ、いけねえなア。なんだか、なぐられそうで、行かれねえ
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