エルという人物でありますが、この教父がどうしてニッポンへやって来るようになったかと申しますと、実はザヴィエルはインドで布教するために東洋へやって来ておったのであります。ですが、インドは御承知のとおり熱帯地方でありまして、インドの人間という者は、非常な怠けものでありまして、熱い熱いでどうも仕方がないのですから同情しますが、新しい知識などを求めようという意欲はまず持ってないと云ってよいのであります。もう一つ、インドにはごく古くから伝っている宗教が根強くはびこっていまして、その力はひろいので、新しい宗教を受けつけることを為《し》ないのであります。
さすがのフランシスコ・ザヴィエルも、この有様で、悲観しておりますと、たまたま一人のニッポン人が彼のところへやって来たのであります。これは弥次郎という人間であります。
この弥次郎が、どうしてインドへやって来たのかと申しますと、彼は鹿児島の人間であります。或る時、人を殺しまして、役人に追われて、お寺へ逃げこみました。何んとかして助かりたい。ところが、彼はポルトガルの一商人と友だちでありましたので、そのポルトガル商人に頼みこみまして、鹿児島の港へポル
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