を見て吃驚りいたしました。信長という人は非常に理智的な人でありまして、ニッポンには珍らしいくらい、現代的な知性を持っていた人物でありますが、これは嘘だろうというので、裸にしまして、ふんどしまで取らして、手で身体を触ってみましたが、どうしても分らない。今度は、お湯で洗わしてみても色が落ちない。こりゃア本物だというので、一緒に連れて来た僧からこのニグロを譲りうけて、これを自分のお茶坊主みたいにして使っておったそうであります。
 これはニッポンの記録にも残っておりますし、また本能寺の変の時には、このお茶坊主が刀を抜いて戦いまして、本能寺が落城いたしますと、今度は信長の子供の信忠の二条城に行って、明智勢を向うにまわして、戦いました。明智勢は彼の刀をもぎとり、投げ捨てて、お前なんかは殺さないと云いました。そこで捕虜になりまして光秀のところへ連れて行ったのですが、ニッポン人ではないから勘弁してやるということで、教会のほうへ帰してやったそうであります。その記録は今日も残っております。
 どうも、尻りきれとんぼですが、時間が参りましたので、結論がありませんが、この辺でやめておきます。
[#地から1字上げ]――歴史に関する或る講演・終――



底本:「坂口安吾全集 07」筑摩書房
   1998(平成10)年8月20日初版第1刷発行
底本の親本:「歴史小説 創刊号、第一巻第二号」
   1948(昭和23)年10月1日、11月1日発行
初出:「歴史小説 創刊号、第一巻第二号」
   1948(昭和23)年10月1日、11月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:oterudon
2007年7月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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