ころへ、興行に誘っているのである。
長崎から船でちょッとで、目下景色のよろしい土地だからと、口説いている。レビュウの姐さんは、長崎も五島も、てんで日本地図は御存知ない様子で、そんなことなんでもないや、と気にとめるところがミジンもないから、面白い。
私も四五年前、切支丹《キリシタン》のことを調べに五島へ旅行した。長崎から船で相当ありますよ。第一、私の歩いたところは、旅館などというものすらも、一軒もなかった。
タロちゃん(淀橋太郎)なども、興行師だから、私と飲んでいるうちにも、目の玉のギロリと見るからに一癖ある大人物の浪花節やら、漫才やらそんなのが膝すりよせてヒソヒソと何か打合せに来たり、可愛いゝ踊子さんが役を頼みにきたり、そこで私は大喜びで、
「ちょッと/\」
大慌てに、あなたは帰っちゃいけません、先ず、飲みましょう、とオシャクをして貰う。これが浅草のよいところで、一パイ飲みましょう、とたのんで、イヤだなどゝ云う人は、昔から一人として居たタメシがなかったのである。まことにツキアイがよい。こゝが浅草の身上である。その代り、酔っ払って、口説いて、ウンと云ってくれた麗人は一人もいなかっ
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