ついて出来るのは語学であるから、フランス語、ラテン語、サンスクリット等々、大いに手広くやりだした。要は興味の問題であり、興味の持続が病的に衰えているから、一つの対象のみに没入するということがムリである。飽いたら、別の語学をやる、というように、一日中、あれをやり、この辞書をひき、こっちの文法に没頭し、眠くなるまで、この戦争を持続する方法を用いるのである。この方法を用いて、私はついに病気を征服することに成功した。
その後は今日に至るまで、かほど顕著な病状を自覚したことはない。それは私が職業上の制約をうけておらず、時に東京へ一年半、時に取手《とりで》へ一年、又、小田原へ一年というグアイに、放浪生活を送ったのも、自らは意識せずに対症療法を行っており、無自覚のうちに、巧みに発病をそらしていたのかも知れない。
又、二十一の経験によって、神経衰弱の原因は睡眠不足にありと自ら断定して以来、もっぱら熟睡につとめ、午睡をむさぼることを日課としたから、自然に病気を封じることが出来たのかも知れなかった。
睡眠不足は、恐らくあらゆる人々に神経衰弱をもたらすであろう。自ら意志して病気の征服に成功した私が、特
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