、こんな題をつけるバカがいる筈のものではない。この部分は、新潮の三、五、六、七月号に分載された。
 私にとっては、題名は「にっぽん物語」でもよかったのである。それは雑誌社も承知しており、私は常々、よい題名がありさえすれば、なんとつけても宜しい、と云い云いしていたことであった。だから妙に遠慮せず、ハッキリと「にっぽん物語」と題をつけてくれた方がよかったのである。新潮社が遠慮すべき点は、ほかに在った。それは、私の承諾を得ずに、発表してはいけない、という一事であった。
 私は今まで、全部の完成を見ぬうちに発表した長篇は、すべてが中絶という運命にあった。これは作者の個性的な性癖の一つで、仕方がないものであろうと思う。その反面、全部の完成を見るまで発表を控えたものは、二年三年の難航はあっても、それぞれ完成しているのである。私はその運命を怖れた。そして、新潮の社員に、題名などは何でもいゝが、全部の完成を見るまで発表を控えて欲しいという一事だけ、特別に言いつゞけていたのであった。借金のことなど、雑誌社にも言い分はあることだし、発表された今となっては、もう仕方がない。女々しく取乱すよりも、私として最も
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