のウチへ間抜け泥棒が忍びこむよりも、このオヤジが殺人強盗に転ずる率が多いのは分りきった話じゃないか。十八人の子供に武術を仕込んでめいめいにダンビラを握らせて荒稼ぎするうちに天晴れ野武士海賊の頭となりついに大名となってメデタシメデタシということは、個人的にも国家的にもない話ではなかった。今日の紳士や紳士国の中の少からぬ数が、こういう風にして成り上った旦那かその子孫かであることも確かである。しかし、今後に於てはその可能性はなくなる一方であるし、その代りには、もっと安定した稼ぎ方で着実に富貴に至る道がありうる時代にもなっている。
 ピストルやダンビラを枕もとに並べ、用心棒や猛犬を飼って国防を厳にする必要があるのは金持のことである。今の日本が金持と同じように持つことができるものは、そして失う心配があるものは、自由とイノチぐらいのものじゃないか。ところが、戦争ぐらいその自由もイノチも奪うものは有りやしない。
 あまり結構な身分じゃないけれども、泥棒に狙われる心配がない身分になってみると、ピストルだ用心棒だと備えを立てて睡眠不足になっている金持どものバカさ加減が分るものだ。すくなくとも自分が殺人強
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