だすよ。近所の防空壕で五人の屈強な工員が窒息で死んだ。うららかな白昼、そこを通りかかったら、三人のこれも工員らしいのが火葬にするため材木をつみあげ、その材木よりも邪魔で無意味でしかない屍体をその上に順に投げ落して、屍体の一つがまだ真新しい戦闘帽をかぶっているのに気がついて一人がヒョイとつまみとって火のかからない方へ投げた。※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]屋のオヤジがガラを投げこむ石油カンの中に肉の小片を見つけてヒョイとつまんで肉のザルの方へ投げる時でも、この火葬係りほど大らかに自分の所有権を信じこんでいるかどうか疑わしいほどだった。しかし、それを目にとめた私も無感動であった。
 あんな時代に平時の冷静と良心を失わない殺人鬼がいて、完全犯罪を行うため人を殺しては痕跡をくらます作業にメンミツに従事していたとすれば不気味な話である。
 けれども、現在どこかに本当に戦争したがっている総理大臣のような人物がいるとすれば、その存在は不気味というような感情を全く通りこしている存在だ。同類の人間だとは思われない。理性も感情も手がとどかない何かのような気がするだけだ。しかし私はその実在を信じて
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