いるわけではない。むしろ、そういう誰かは存在しないのじゃないかと考える。それほどのバカやキ印は考えられない気になるからだ。
けれども、日本の再軍備は国際情勢や関係からの避けがたいものだと信じて説をなす人は、こういう奇怪な実力をもった誰かの存在を確信しているのだろうか。そんな考えの人も不気味だね。同じ不気味にしても、完全犯罪狂の殺人鬼よりもそそっかしくてメンミツでないらしいので、ソラ怖しいよ。
屍体から戦闘帽をもらった火葬係りなどは、明日は自分がその戦闘帽と一しょに吹きとばされてバラバラになるかも知れない無数の迷い子の一人にすぎないのである。彼はまだ生きてたから屍体の戦闘帽をもらっただけのことであろう。戦争とはそういうものなんだ。戦争になってしまえば、そうあるだけのことだ。
戦争にも正義があるし、大義名分があるというようなことは大ウソである。戦争とは人を殺すだけのことでしかないのである。その人殺しは全然ムダで損だらけの手間にすぎない。
[#地付き]『文学界』昭27[#「27」は縦中横]・10[#「10」は縦中横]
底本:「坂口安吾選集 第十巻エッセイ1」講談社
1982(昭和57)年8月12日第1刷発行
初出:「文学界」
1952(昭和27)年10月号
入力:高田農業高校生産技術科流通経済コース
校正:小林繁雄
2006年9月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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