ふるさとに寄する讃歌
夢の総量は空気であった
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)茱萸《グミ》

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)螽※[#「虫+斯」、第3水準1−91−65]《きりぎりす》が
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 私は蒼空を見た。蒼空は私に泌みた。私は瑠璃色の波に噎ぶ。私は蒼空の中を泳いだ。そして私は、もはや透明な波でしかなかった。私は磯の音を脊髄にきいた。単調なリズムは、其処から、鈍い蠕動を空へ撒いた。
 私は窶れていた。夏の太陽は狂暴な奔流で鋭く私を刺し貫いた。その度に私の身体は、だらしなく砂の中へ舞い落ちる靄のようであった。私は、私の持つ抵抗力を、もはや意識することがなかった。そして私は、強烈な熱である光の奔流を、私の胎内に、それが私の肉であるように感じていた。
 白い燈台があった。三角のシャッポを被っていた。ピカピカの海へ白日の夢を流していた。古い思い出の匂がした。佐渡通いの船が一塊の煙を空へ落した。海岸には高い砂丘がつづいていた。冬にシベリヤの風
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