学校の時、野球をしてボールを追っかけていた目と鼻の間を皮をかすめて円盤が飛んで行った。次に私が中学の時、グランドに立っていたら、選手の投げやりがのびてきて後から私のひらいたももの間へ突ッ立った。私は今でも風をひいて高熱を発したりすると、この円盤とやりの追想に悩まされる。
二十の時、一人の山登りに、谷底へ墜落、落ちて行く時、オヤオヤ死ぬな、と思った。悲しくなかった。ほんとだ。そしたら程へて気がついた。谷川の中で、私は水の上へ首だけだしていた。ふくらんだリュックのおかげであった。
二十一の時、本を読みながら市内電車から降りたら自動車にハネ飛ばされたが、宙にグルグル一回転、頭を先に落っこったが、私は柔道の心得があり、先に手をつきながら落ちたので、頭の骨にヒビができただけで、助かった。
私は二十七まで童貞だった。
二十七か八のころから三年ほど人の女房だった女と生活したが、これからはもう散々で、円盤ややりや自動車の比ではない。窒息しなかったのが不思議至極で、思いだしても、心に暗幕がはられてしまう。
その後はなるべく危険に遠ざかるよう心がけて今日まで長生きしてきたが、この心がけは要するに
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