のが好きですよ。オナラをしない人は男のような気がしなくなりましたよ。妙なものですねえ」
「それが無限の愛惜かな」
「そうかも知れませんね。どっちかと云えば、私はあなたの言葉よりもオナラの方が好きでした。言葉ッてものは、とかくいろいろ意味がありすぎて、あなたの言葉でも憎いやら口惜しいやらバカらしいやらで、親しみがもてないですね。そうかと思えば、見えすいたウソをつくし。オナラにはそんなところがありませんのでね」
「なるほど。それだ。ウム。私たちは幸福だったな。本当の夫婦だった。ウム。ム」
 お奈良さまは胸をかきむしった。アブラ汗が額からしたたり流れている。目を白黒したが、抱きかかえる女房の腕の中へあおむけにころがった。そして、そのまま息をひきとってしまったのである。



底本:「坂口安吾全集 14」筑摩書房
   1999(平成11)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「別冊小説新潮 第八巻第一〇号」
   1954(昭和29)年7月15日発行
初出:「別冊小説新潮 第八巻第一〇号」
   1954(昭和29)年7月15日発行
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2006年9月16日作成
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