て行く快感をふと選びそしてそれに身をまかせた。私はこの日の一切の行為のうちで、この瞬間の私が一番作為的であり、卑劣であつたと思つてゐる。なぜなら、私の選んだことは、私の意志であるよりも、ひとつの通俗の型であつた。私はそれに身をまかせた。そして何か快感の中にゐるやうな亢奮を感じた。
 私は卓の下のくゞりをあけて犬のやうに這入らうとした。女は立上つて戸を押へようとしたが、私の行動が早かつたので、私はなんなく内側へ這入つた。けれども女を押へようとするうちに、女はもうすりぬけて、あべこべに外側へくゞり出てゐた。両方の位置が変つて向き直つた時には私はさすがにてれかくしに苦笑せずにゐられなかつた。
「泊りに行かうよ」
 と私は笑ひながらも、しつこく言ひつゞけた。
「商売の女のところへ行きな」
 と女の笑顔は益々太々しかつた。
「昼ひなか、だらしがないね。私はしつこいことはキライさ」
 と女は吐きだすやうに言つた。
 私の頭には「商売の女のところへ」といふ言葉が強くからみついてゐた。この不潔な女すら羞しめうる階級が存在するといふことは私の大いなる意外であつた。私はアキを思ひだした。その思ひつきは私を
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