「刺青殺人事件」を評す
坂口安吾
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)却々《なかなか》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ゴタ/\
−−
刺青殺人事件は、すぐ犯人が分ってしまう。それを、いかにも難解な事件らしく、こねまわしているから、後半が読みづらい。三分の二が解決篇みたいなもので、その冗漫が、つらい。将棋をやって、犯人をテストするなど、バカバカしくて、堪えがたいものがある。解決篇の長さは、十分の一、或いは、それ以下の短かさで、まに合い、そして、短くすることによって、より良くなるのである。
いったいに、小説というものは、短くすると、たいがい良くなる。文章が本来そういうもので、作者は何か言い足りないような気持でゴタ/\書きたいものだけれども、文章は本来いくら書いても言い足りないもので、むしろズバリと一言で言ってのけ、余分のところをケズリ取ってしまう方が、却って言い足り、スッキリするものだ。
文章専門の文学青年でも、文章をこなすには時間がかゝるもので、探偵小説界の文章と縁のない新人に文章のことを云うのは酷であるが、
次へ
全8ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング