レは、そういう反映で太陽の光を見て取ることができるものだ。私は太陽が好きである。
「天気だな。」と私は看守に言った。
 彼はそれが言葉を費やすほどのことであるかどうかわからないかのように、すぐには返事をしなかった。が、次に多少努めてぶっきらぼうにつぶやいた。
「そうかもしれない。」
 私は身動きもしないで、まだ頭はなかば眠り、口には微笑を浮かべて、廊下の天井を染めてるそのやさしい金色の反射に目をすえていた。
「今日はいい天気だな。」と私はくりかえした。
「うむ。」と看守は答えた。「みんな君を待ってるぞ。」
 そのわずかな言葉は、一筋の糸が虫の飛ぶのを妨げるように、私を激しく現実の中に投げおろした。そして稲妻の光に照らされたように、突然私の目に再び映ってきた、重罪裁判の薄暗い広間、血なまぐさい服をつけてる判事らの円形席、茫然《ぼうぜん》たる顔つきをしてる証人らの三列、私のベンチの両端に控えてる二人の憲兵、動きまわってる黒い法服の人々、影の底にうようよしてる群集の頭、私が眠ってるあいだじゅう起きていた十二人の陪審員らが、私の上にじっとすえてる目つき!
 私は立ちあがった。歯はがたがた鳴り、手は震えて服を探しあてることができず、足は弱りきっていた。一足ふみ出すと、荷を背負いすぎた人夫のようによろめいた。それでも私は看守のあとについていった。
 二人の憲兵が監房の入口で私を待ち受けていた。私は再び手錠をはめられた。それには複雑な小さな錠前がついていて、注意深く鍵がかけられた。機械の上にまた機械をつけるのであるが、私はされるままにまかした。
 私たちは内部の庭を横ぎっていった。朝の鋭い空気が私を元気づけた。私は頭をあげて歩いた。空は青々としていて、暖かい太陽の光が、多くの長い煙突に断ち切られ、監獄の高い薄暗い壁の上方に、大きな光の角度を描いていた。果たして上天気だった。
 私たちは螺旋形《らせんけい》に回ってる階段をのぼっていった。そして一つの廊下に出《い》で、なおも一つの廊下に出で、なおも一つ廊下を通った。それから低い扉が開かれた。そうぞうしい熱い空気が私の顔に吹きつけてきた。重罪裁判廷の群集の息吹《いぶき》だった。私は中にはいった。
 私の姿を見て、武器や人声のどよめきが起こった。腰かけが音高く置き直された。仕切りの板がきしった。そしてその長い広間を、兵士らに遮られてる二
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